こちらあみ子

こちらあみ子

こちらあみ子

太宰治賞、三島由紀夫賞のW受賞で評判も良いらしく読んでみました。
まず、表題作こちらあみ子。
障害といいきれず、かといって普通(そんなものはない気がするが)でもない、女の子の回想記。世間に変な子と言われるなか家族は何とかあみ子を理解しようとし、普通になって欲しいと思い真摯に接するが、いろいろな出来事の積み重なりでついには限界に達し、家族は崩壊していく。周囲をどんどん悲惨にし、自分も理不尽な目にあうが、あみ子は、なぜ自分がこんな目にとは思わないし思えない。とても哀しく悲惨に思えるが、最後の方のあみ子と名もないクラスメートの話がとてもグッときたり、絶妙なバランスだと思う。あみ子のことは全然理解できないが、応援したくなると思ってしまう、そんな魅了がある。


併録のピクニック。
中心人物となるさえない中年の女性が出て来て、私誰もが知っている人気お笑い芸人と付き合ってるんです、なんて言いだすので、嫌ーな予感はしていましたが、いまいち確信にまで至らず、最後のほうちょっとぞっとして終っていった。
なぜかと言うと、登場人物の行動に対しての説明的な心理描写をせず、ただ行動を描写していて、映像的で客観的に描かれているからだと思う。だから文章として断定されていないので、女性の恋愛を応援しているまわりの人たちやさしい人じゃないか、と少し困惑しながらも思ってしまっていた。

でも実際は童話裸の王様で、実は聴衆全員が、裸の王様を面白がっていたのに、空気読めない子供が王様は裸だって言っちゃった的な話。いじめの構造はたまた人間の悪意が見事に描かれています。

そういう観点で見直すと、最初から計算して書かれてて、こうも端的に人間の悪意とその怖さを過不足なく表現するかと、ゾッとして作者すごいなと感心した。