カソウスキの行方

カソウスキの行方 (講談社文庫)

カソウスキの行方 (講談社文庫)

津村さんは芥川受賞で気になって、当時文庫になっていた"君は永遠にそいつらより若い"やハードカバーで珍しく単行本で"ミュージックブレスユー"を買って読んだりしました。以降新作として出ていた本で面白そうだなぁって思ってても学生時分には文庫にならないとそうやすやすとは買えませんでした。そういうこともあり文庫化されるのが待ちどおしい作家さんであります。

表題作は、仮想好きという、思考実験といえば大げさですが、好きになるということに対する、もしかして好きなんじゃないかとともうことで暗示にかかって好きになる、ということを意識的にやってみようとする話です。
人を好きになるのに抵抗がない人にはあまり面白さを感じない、もしくはそれは好きってことでしょ、とか言いたくなるのではないでしょうか。惚れっぽい人、恋愛至上主義みたいな人が自然とやっていることを、よしとしない、理由を考えたくなる主人公。仕事がつまらなくて他に熱中できることがないから、消去法で選んだ相手を仮想好きとして接するようにする。そこでの心の機微は興味深いです。

印象に残ったのは、自分と同等かそれ以下の幸せしかないと思っていた相手に、いろいろな人生経験があったり、友達が多そうなことをしり、気持ちが遠のいていきそうになる場面です。ある種自分以下と思うからこそ、精神的優位になってやさしくできるけど、そうでもないとなったら、自分の優位がぐらつく心の揺れ動きには共感しました。

たいして知らないのにある人をステレオタイプに見て、この人はこうだろう、自分の方がマシだなと優越感を抱いて思っていると、違ったりしててプライドが気づ付くは言いすぎですが落ち込むことはあります。自分は、相手にステレオタイプな見方をされて優越感を勝手に抱いている視線言動は嫌いなのに。何よりそこで自身の気持ちの変化もしくは相手に抱かれる気持の変化を意識してしまうことが一番めんどくさくて嫌なのだけれどなあ。

表題作も良かったけど併録の"Everyday I Write A Book"も面白かった。