桜島・日の果て・幻化

桜島・日の果て・幻化 (講談社文芸文庫)

桜島・日の果て・幻化 (講談社文芸文庫)

ボロ家の春秋とは違った印象ですが、面白いです。
・風宴
ボロ家の春秋などに近い、仲が良い間でも嫌いな部分があったり、腐れ縁のような関係だったり、仕方なく付き合うという隣人とのかかわりをユーモアを交えて描いております。自分に当てはめても否定したいができない人間関係像です。
・桜島、日の果て
どちらも戦争もの。決して重要な立場にあったわけでも、愛のために死ぬ、みたいな大それた人ではない一兵隊のが描かれていて、これが戦争について感じる心象なんだと、思いました。
・幻化
著者が戦後数十年たって、戦時中に配置されていた桜島などに訪れる旅行記。旅に出る前の心を痛めて入院している最中や戦争中のトラウマに近い思い出などがフラッシュバックのようによみがえり、それらを断ち切りながら前に進む姿を描いているように思いました。

最後の場面の、偶然出会った妻子を失い自殺願望を持つ同行者が阿蘇山の火口で自分が自殺するかしないかを主人公とかけ、主人公が火口周りを歩く同行者を望遠鏡で眺めながらつぶやく言葉とその風景が、主人公自身にも語りかけているようでとても印象に残りました。

しっかり歩け。元気出して歩け!