世界は分けてもわからない

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

世の中のおよその人間はマップヘイターとマップラバーにわけられるらしい。
マップラバーは地図が大好きな人で世界の全体像を眺めるのが好き。マップヘイターは目的地に行くのに、地図や案内板をあてにしない人で自分と前後左右の関係性だけでやっていけるじゃんと考える人。
実際に方行オンチで道に迷うことが多いのは、マップラバーらしいです。
で人間の細胞はマップヘイターらしく、周りの細胞同士で空気読んで、
「え?おまえ心臓になるの?ならおれ肺になるわ。」
てな感じで細胞分裂し人間の形になっていくそうです。ただ細胞単体はマップヘイターなので全体でどのようになっているのかはわからない。
細胞がマップヘイターなら人間ももしかしたら目的を持ってそこに猪突猛進すること以上に、その場その場の段階で臨機応変に動くことが大事な気がします。セレンディピティという言葉もありますし。
そのように人間の行動と細胞のふるまいが似ている気がしてきます。なんというか恒星の周りを公転している惑星の構図が、原子の中の原子核と電子の関係に似ているように、マクロな物質のふるまいとミクロな物質のふるまいが同じように見えてくるのです。
すると世の中は何かしらのある単純な公式をもとに動いているのかもしれないと、不思議な気分になります。

ところで空気を読めないKYな細胞がES細胞(万能細胞)らしいです。このES細胞は、目的が決まる前に周りの細胞から人為的に引き離した細胞で、つまり周りの空気に触れられないため、自分が何になっていいかわからず、無尽蔵に増え続けるらしい。(正常な細胞は心臓なら心臓が完成した時点で増幅をやめる)
ただES細胞は、適切な空気にさえ触れればその万能性を発揮するようです(あらゆる細胞になることができる)。問題はその空気に触れさす制御が難しいようですが。

このES細胞と同じくというか、こちらが元祖というべき似た性質をもつ細胞ががん細胞です。がん細胞は自分が何になったらいいかわからなくなった細胞が無尽蔵に増え続け、周りの細胞を浸食していき、臓器の機能を失わせます。

細胞も人間も読むべき空気がなければ何にもなれないのではと思います。重要なのは空気を読みたいと思える人やものがあり、それにより何かになることなろうとすることが、人間のがん細胞化を防げるのではないでしょうか。細胞レベルのミクロな視点でも同様に見えることが説得力を増しています。もしかしたら人間みんながES細胞かもしれないですから。

蛇足ですが、空気を読み合う細胞の性質から、アジカンの鎌倉グッドバイという曲の、
雨の日には傘になろう 君が一人濡れないように
風の日には旗になろう 君が見失わないように
という歌詞を思い出しました。とても素敵な歌詞だと思います。