飆風

小説三篇+講演会の語りが収録。
『密告』という短編では、他の車谷さんの短編とは少し毛色が違い、夏目漱石の『こころ』や太宰治の『駆け込みうったえ』あたりに通じるものがありした。ストレートに心情を連ねる面白さももちろんですが、他作品よりストーリーや構成の面白みがあり印象に残りました。

表題作の『飆風』は、奥様の詩が小説のストーリーと密接に絡み合い効果的に使用され、こちらも他作品とは少し違う印象を持ちました。また精神疾患が一つのテーマになっているので、色川武大さんの『狂人日記』を思い出しました。ただ狂人日記は人と繋がれない孤独で患うのに対し、飆風は小説を書くという因果によって精神を患っていてます。太宰治にしても、私小説家は自分(およびその周りの人の)ことを書き、なおかつ自分のことを客観的な視点で描けているということは、自身の感情なりをそのままを書いているわけではないのかもしれないと思います。ただ、それでもある程度は事実を元にして書いているなら、正直ストレスは尋常じゃないだろうなと思います。著者はそれだけ心を削って書いているからこんなにもひりひりする文章が書けるんだろうなと思いました。

また名作『赤目四十八滝心中未遂』の作成時の内容なので、ちょっとした完成秘話もありファンにはうれしい。 

飆風 (文春文庫)

飆風 (文春文庫)