ジェイルバード

ジェイルバード (ハヤカワ文庫 SF (630))

ジェイルバード (ハヤカワ文庫 SF (630))

再読。ヴォネガットと言えば、タイタンの幼女や、猫のゆりかごあたりが特に好きですが、ジェイルバードや母なる夜あたりも好きです。

正直どんな話か覚えてなかったけど、ヴォネガットの良き読者である少年が言ったヴォネガットの小説の核心「愛は負けても、親切は勝つ」は覚えてました。言いえて妙ですね。
「愛をちょっぴり少なめに、ありふれた親切を少し多めに」と書かれてたのは何だったかな、忘れた。

読み返したら、心ない主人公がその昔適当に付き合って振った女性の最後をみとるシーンが特に印象に残りました。

わたしはまた泣き始めていた。
「あなたが本気じゃなかったのは知ってるのよ」
「本気さ、本気だった」私は抗議した。「嘘じゃない―本気だった」
「もういいのよ」彼女はいった。「ハートを持たずに生まれてきたのは、あなたのせいじゃないわ。少なくともあなたは、ハートを持った人たちが信じていたことを、信じようとした―だからあなたもやっぱりいい人なのよ」

本気かそうじゃないか、女性は男が思ってる以上に見抜けてる気がする、というかそうであって欲しい。分かっててなお盲目的に信じるとか愚行はして欲しくない。

"ハートを持った人たちが信じていたこと"は、例えば中学生が高校受験の時、好きな言葉を考えろと教師に言われ、偉人達が残した言葉から気に言ったものを選び後付けで理由を考えるようなことだろう。その偉人の言葉を実感として理解しているというより、ああ良い言葉だなぁ、と打算的に思うこと、そしてそれを信じようとする人はやっぱり良い人なのよ、と言われることはすごい赦しだなと思いました。